仕事がアイデンティティになるのはとても幸せなこと。

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最終更新日 2025年3月3日

最近はブームが過ぎ去った感もありますが、早期退職して自由を謳歌する「FIRE」という生き方に興味がある人も多いと思います。

若いうちにさっさとお金を稼いで資産をつくり、残りの時間は投資したり必要最低限の労働をしながらのんびり生きる。

経済的自由と早期退職の2つは、現代人の多くの人たちを惹き付けてやまないパワーワードです。

不自由しない程度のお金さえ稼げば、後はさっさと退職して気楽に生きていく。

たしかに「FIRE」や「自由」といった響きはいいし、実現できれば望んでいた生活を送ることで人生の幸福度も増すでしょう。

ですが、人間にとって仕事はアイデンティティでもあり、仕事をやめて気楽に生きるというのは、失恋したように心にぽっかり穴が空いた状態と同じです。

お金で自由を買い、仕事をやめて今までのアイデンティティを失った中で、この先何十年もの余生を楽しく生きられる人はどれだけいるのか。

 

人間のアイデンティティは仕事に宿る

現実的な問題として、仕事をやめてFIREして手に入れる自由な状態というのは、実際にはそれほど自由ではなかったりします。

つまらない仕事に中指を立てて上司にファックユーと言って退職するぐらいの経済的な自由を得たとして、それが人生の自由につながるわけではありません。

人間のアイデンティティは仕事にあるもので、やることがない人生は嫌な仕事をやる以上につまらないものになるからです。

そうした嫌な仕事をしているときは、仕事に行きたくない気持ちが強いだろうし、毎日苦痛で仕方がない人も多いでしょう。

でも、だからといって仕事を辞めれば自由になれると思うのは早計です。

私も昔は毎日嫌な仕事をしながらお金を稼いでいましたが、そのときはストレスバロメーターが非常に高い状態にあるので、目に映るすべてのものが青い芝生のように見えました。

自分の中での「自由」という言葉が持つ意味は過大評価され、今の状況から抜け出しさえすれば自由な人生を送れると本気で思っていた。

でも、いざお金を貯めて退職して自由になってみたら、その自由の幸福度は数ヶ月で消えました。

仕事を辞めて数か月は解放感に溢れ、自由な気持ちを謳歌していても、次第に仕事をやめて何者でもなくなった自分に不安を感じはじめる。

さらに、社会とのつながりもなくなり、「これが自分だ」と語れるアイデンティティとなるものは何もなく、自由に精神的な重圧を感じるようになっていきました。

 

自由はアイデンティティを失った状態

FIREに憧れる多くの人が気づいていないのは、自由はアイデンティティを失った状態であるという点です。

アイデンティティは自分らしく生きるための指針となるものであり、自分の居場所とも言い換えられます。

仕事を辞めると人はアイデンティティを失い、空っぽの自分と対峙しなければなりません。

そうした中で、自分の価値を認め、社会とのつながりを維持し、楽しく生きられる人ははたしてどれだけいるのか。

もちろん、仕事をすること自体は義務になっているわけではないし、仕事をやめて自由に生きる権利は誰にでもあります。

でも、与えられた寿命の中で社会や他人のことを考え、自分なりに社会の役に立ちながら生きることは人間の唯一の使命ではないかとも思っています。

仕事を辞めることに憧れを抱く人の多くは、自由と惰性を履き違え、仕事を辞めて毎日寝腐ってダラダラと過ごし、運動もせずに好きなものを好きなだけ食べることを「自由な生活」と勘違いしています。

仕事を辞めてアイデンティティを失った状態の不安に耐え切れず、娯楽にまみれて不安をどうにか抑えながら生きていく。

人は仕事をやめ、アイデンティティを失った状態では楽しく生きていくことが難しいです。

実際、FIREした人の中には、毎日退屈でつまらないと嘆く人も多く、仕事していたときのほうが充実していたと感じる人も少なくありません。

 

仕事は自然とアイデンティティになっていく

仕事は人間のアイデンティティと言いましたが、そこまで仕事に真剣に取り組んでいない人がいるのも事実です。

単純に働くのが嫌いな人だっているだろうし、仕事よりもプライベート優先で、趣味や娯楽で十分楽しく生きていける人もいます。

でも、大多数の社会人はすでに仕事が自分の人生を構成する一部になっていて、仕事が自身のアイデンティティにまでくい込んでいるため、仕事を辞めたら失恋したかのようにポッカリと穴が空いたような気持ちになる人は多いです。

とくに仕事でそれなりに評価されている人であれば、仕事から自己肯定感や承認欲求をそれなりに得ているため、それらを失うことは身体の一部を失うかのような喪失感を感じる人も少なくありません。

仕ステージに立って注目と賞賛を集めていたアイドルが卒業や引退をすることで、「特別な一人」から「ただの個人」になって寂しさを感じるのに似ています。

普段ストレスの多い仕事をしているとなかなか気づかないかもしれませんが、仕事から受け取っているのは単なる給料だけじゃありません。

給料のほかにも、人とのつながりや自己肯定感、承認欲求や自己実現、達成感や心の充足感といった、生きていく力になるエネルギーのようなものを仕事から受け取っています。

仕事の感情という報酬は、失ってはじめて大事なものだったと気づくように、失ってはじめて受け取っていたのだと気づくもの。

そして、そうした感情が「自分」という人間をつくり、アイデンティティとして自分の人間性に深く刻み込まれていきます。

つまり、仕事はアイデンティティに「する」のではなく、自然と「なっていくもの」なのです。

 

仕事がアイデンティティは幸せな状態

YouTuberの「好きなことで生きる」というのもそうだし、最近の「FIRE」ブームも一時的なものに過ぎません。

多くの人はストレスを抱えながら仕事をしているから自由な惹かれますが、自分の周りにもFIREして数ヶ月で社会に復帰する人が多いのを見ると、やはり仕事とアイデンティティは切っても切れない関係なのだと感じます。

大多数の人が求めてるのは自由ではなく、一時的なストレスを解消する方法なのではないか。

自分もそうでしたが、ストレス過多になってるときは何でも青い芝生に見えるため、すべての選択肢が今の自分の状況よりよく見えてしまいます。

その中で「自由」という言葉はより強い輝きを放ってるので、甘いものに惹かれるアリのように自由に惹かれているのが現代人です。

もちろん、これはFIREという生き方を否定しているわけではなく、FIREしたい人はすればいいと思います。

仕事に対する価値観も、社会と向き合う姿勢も、人間に対する感情も人それぞれなので、自分が納得できる生き方を選んで生きればそれでいい。

ですが、FIREするにしても、仕事が自分のアイデンティティの一部であることを忘れてはいけません。

仕事以外に自分のアイデンティティがある人はいいかもしれませんが、それ以外の人は仕事こそ「自分」という人間を表すアイデンティティなのです。

仕事がアイデンティティだと言うと、「社畜」だの「働くために生きているのではない」だの言う人がいますが、それは単に仕事選びが間違っているだけの話。

きちんと自分の性格や働き方に合った仕事を選択すれば、仕事がアイデンティティになることはとても幸せなことです。

仕事はアイデンティティであることを認め、ストレスしか感じない嫌な仕事ではなく、「これが自分だ」と言えるような、誇らしいアイデンティティになる仕事をしていきましょう。

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