リスキーシフトとは?心理学で解く集団のリスク行動とその影響

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最終更新日 2025年5月20日

「リスキーシフト」という言葉を聞いたことがありますか?

この心理学の概念は、集団で意思決定を行う際に、個人のときよりも大胆でリスクの高い選択をする傾向を指します。

社会心理学の分野で広く研究されており、ビジネス、日常生活、さらには歴史的な出来事にも影響を与える重要な現象です。

この記事では、リスキーシフトの定義、心理的メカニズム、具体的な事例、そしてその対策までを心理学の視点から詳しく解説します。

なぜ人は集団になると大胆になるのか、その背後にある心理を紐解きながら、実生活での活用方法も提案します。

読み終わる頃には、リスキーシフトがあなたの周囲の意思決定にどのように関わっているか、明確に理解できるでしょう。

 

リスキーシフトとは何か?基本を押さえる

リスキーシフト(Risky Shift)は、1960年代に社会心理学者ジェームズ・ストーナーによって提唱された概念です。

彼の実験により、集団での議論が個人の判断よりもリスクを取る方向にシフトする現象が明らかになりました。

この現象は、集団思考やグループダイナミクスの一部として、個人が単独では選ばないような大胆な決断を、集団では支持する傾向を示します。

例えば、個人では「安全な投資先を選ぼう」と考える人が、グループでの議論を経ると「リスクを冒してでも高いリターンを狙おう」と意見を変えることがあります。

このような変化は、集団の力学が個人の心理にどのように影響するかを示す興味深い例です。

リスキーシフトは、集団極化(Group Polarization)の一種として扱われることが多く、グループ内での議論が意見をより極端な方向に導く現象に関連しています。

ただし、リスキーシフトは特に「リスクを取る方向への極化」に焦点を当てたものです。

一方で、集団がより慎重な選択をする「慎重シフト(Cautious Shift)」が起こる場合もあります。

この二つの現象は、集団の意思決定の複雑さを象徴しています。

 

リスキーシフトと集団極化の違い

リスキーシフトと集団極化は密接に関連していますが、微妙な違いがあります。

集団極化は、グループ内での議論がメンバーの意見をより極端にする現象全般を指します。

例えば、リベラルな意見を持つグループがさらにリベラルに、保守的なグループがさらに保守的になることがあります。

一方、リスキーシフトは、集団極化の中でも特にリスクを取る方向に意見が偏るケースを指します。

この違いを理解することで、リスキーシフトがどのような状況で発生しやすいかをより明確に把握できます。

ビジネスミーティングで大胆な戦略が採用される場合、リスキーシフトが働いている可能性があります。

 

リスキーシフトが起こる心理的メカニズム

なぜ集団ではリスクを取る傾向が強まるのでしょうか?

その背後には、複数の心理的要因が絡んでいます。

以下に、リスキーシフトを引き起こす主なメカニズムを詳しく解説します。

 

1. 社会的比較と承認欲求

人は集団の中で「認められたい」「目立ちたい」という承認欲求を持ちます。

社会的比較理論によると、グループ内での地位や評価を高めようとする際、リスクを取る姿勢が「勇敢」「決断力がある」と見なされることがあります。

そのため、メンバーはより大胆な意見を主張し、リスキーシフトが促進されます。

例えば、会議で「新しい市場に進出しよう」と提案する人は、リスクを取る姿勢がリーダーシップとして評価される可能性があります。

このような社会的圧力が、リスキーシフトを後押しします。

 

2. 責任の分散

集団での意思決定では、個人の責任が分散されるため、リスクを取る心理的ハードルが下がります。

失敗しても「みんなで決めたことだから」と責任を共有できるため、大胆な選択がしやすくなります。

この現象は、集団思考(Groupthink)とも関連しており、過度なリスクを取る原因の一つです。

例えば、チームで高リスクなプロジェクトを進める際、個人では「失敗したら自分の責任になる」と躊躇するかもしれませんが、集団では「全員で決めたから大丈夫」と感じやすくなります。

 

3. 情報共有の偏り

グループでの議論では、リスクを支持する情報が強調され、慎重な意見が埋もれがちです。

メンバーが共通の目標や価値観を共有することで、リスクをポジティブに捉える傾向が強まります。

例えば、「このプロジェクトは成功すれば大きな利益になる」という情報が強調され、「失敗のリスク」に関する議論が軽視されることがあります。

この偏りは、グループの情報処理の特性によるものです。

メンバーは、集団の雰囲気に合わせて、リスクを楽観的に評価する傾向があります。

 

4. 集団の結束力と同調圧力

グループの結束力が高まると、メンバーは互いに同調しやすくなります。

この同調圧力により、リスクを取る意見が主流になると、他のメンバーがそれに流されやすくなります。

例えば、チームが「大胆な挑戦をしよう」と盛り上がると、慎重な意見を述べることが難しくなり、リスキーシフトが加速します。

この現象は、特に結束力の強いチームや、強いリーダーシップが存在する場面で顕著です。

メンバーは、グループの調和を保つために、自分の意見を抑えることがあります。

 

5. リスクの過小評価

集団での議論では、リスクが過小評価される傾向があります。

これは、メンバーが互いの意見に影響され、楽観的な見方が強まるためです。

例えば、「このプロジェクトは失敗する確率は低い」と全員が思い込むことで、リスクの現実的な評価が疎かになります。

この過小評価は、リスキーシフトの大きな要因であり、ビジネスや投資の失敗につながるケースも少なくありません。

 

リスキーシフトの具体的な事例

リスキーシフトは、ビジネス、日常生活、歴史的な出来事など、さまざまな場面で観察されます。

以下に、具体的な事例を挙げて詳しく解説します。

 

ビジネスでのリスキーシフト

企業での会議を想像してみましょう。

ある新製品の開発プロジェクトで、個々の社員は「予算を抑えて安全に進めよう」と考えるかもしれません。

しかし、会議で「競合他社に先駆けて大胆な投資をすべきだ」という意見が主流になると、グループ全体がリスクの高い戦略を支持する可能性があります。

例として、2000年代初頭のドットコムバブルが挙げられます。

この時期、多くの企業がインターネット関連の事業に過剰な投資を行い、大きな損失を被りました。

経営陣や投資家グループが、集団での楽観的な議論を通じてリスクを過小評価した結果、リスキーシフトが働いたとされています。

 

日常生活でのリスキーシフト

友達同士で旅行の計画を立てる場面を考えてみましょう。

個人では「安全な観光地を選ぼう」と思うかもしれませんが、グループで「冒険的な場所に行こう!」と盛り上がると、リスクの高いプランが採用されることがあります。

例えば、オフロードのキャンプや危険なアクティビティを選ぶケースは、リスキーシフトの典型的な例です。

このような場面では、グループの興奮や同調圧力が、リスクに対する慎重な判断を上書きしてしまいます。

 

歴史的なリスキーシフトの例

歴史的な事例としては、1961年のピッグス湾侵攻が有名です。

アメリカ政府の意思決定グループが、キューバへの侵攻を過度に楽観的に計画し、結果として大失敗に終わりました。

このケースでは、集団思考とリスキーシフトが重なり、リスクの過小評価や反対意見の抑圧が起こったとされています。

もう一つの例は、2008年のリーマンショックです。

金融機関のトレーダーや経営陣が、集団での楽観的な見方に基づいて高リスクな金融商品に投資し、経済全体に大きな影響を与えました。

これも、リスキーシフトが関与したケースとして分析されています。

 

リスキーシフトのメリットとデメリット

リスキーシフトは必ずしもネガティブな現象ではありません。

状況によっては、集団のリスクを取る姿勢がイノベーションや大胆な成果を生むことがあります。

しかし、デメリットも無視できません。以下に、メリットとデメリットを詳しくまとめます。

 

メリット

  • イノベーションの促進

リスクを取ることで、新しいアイデアや革新的なプロジェクトが生まれる可能性があります。

例えば、スタートアップ企業が大胆なビジネスモデルを採用することで、業界を変える成功を収めるケースがあります。

  • 迅速な意思決定

集団の結束力が高まることで、迅速かつ大胆な決断が下される場合があります。

これは、競争の激しい市場で有利に働くことがあります。

  • チームのモチベーション向上

リスクを取る姿勢が、メンバーのやる気や挑戦心を高め、チーム全体のエネルギーを引き出します。

 

デメリット

  • 失敗のリスク

過度なリスクを取ることで、大きな損失や失敗を招く可能性があります。

特に、ビジネスでは資金の損失やブランドの毀損につながることがあります。

  • 偏った判断

慎重な意見が無視され、バランスの取れた意思決定が難しくなります。

これにより、長期的な視点が欠けることがあります。

  • 責任の曖昧化

責任の分散により、個々のメンバーが無責任な態度を取るリスクがあります。

これは、組織の信頼性や倫理に影響を与える可能性があります。

 

リスキーシフトを防ぐ・活用するための対策

リスキーシフトを理解したら、それを防ぐ、あるいは上手に活用する方法を考えることが重要です。

以下に、具体的な対策を詳しく紹介します。

 

1. 多様な意見を取り入れる

グループ内に多様な視点を持つメンバーを含めることで、リスクを過度に支持する傾向を抑えられます。

例えば、異なる部署や背景を持つ人を議論に招くことで、バランスの取れた視点が得られます。

また、外部の専門家をコンサルタントとして招くのも有効です。

 

2. デビルズ・アドボケートを導入

「デビルズ・アドボケート(悪魔の代弁者)」を任命し、意図的に反対意見を述べさせることで、バランスの取れた議論を促進できます。

この方法は、集団思考やリスキーシフトを防ぐのに効果的で、特に重要な意思決定の場面で役立ちます。

 

3. リスク評価のプロセスを明確化

意思決定前に、リスクとリターンを客観的に評価するプロセスを設けましょう。

データや事実に基づいた分析を行い、感情的な盛り上がりを抑えることが重要です。

例えば、SWOT分析やシナリオプランニングを活用することで、リスクを可視化できます。

 

4. 心理的安全性を確保

メンバーが自由に意見を言える環境を作ることで、同調圧力を軽減できます。

心理的安全性があれば、慎重な意見も尊重され、リスキーシフトを防ぎやすくなります。

リーダーは、異なる意見を積極的に引き出し、批判されない雰囲気を作るべきです。

 

5. 議論の段階を分ける

議論を「アイデア出し」「評価」「決定」の段階に分けることで、リスキーシフトをコントロールできます。

アイデア出しの段階では大胆な意見を歓迎し、評価の段階で客観的な分析を行うことで、バランスの取れた意思決定が可能です。

 

リスキーシフトを日常生活や仕事に活かす方法

リスキーシフトを完全に防ぐのではなく、適切に活用することで、個人や組織の成長につなげられる場合があります。

以下に、活用のポイントを詳しくまとめます。

  • クリエイティブなアイデア出し

ブレインストーミングでリスクを取るアイデアを積極的に出し合い、革新的な解決策を見つける。

例えば、新製品のコンセプトを考える際、あえて大胆なアイデアを優先する。

  • チームの結束力を高める

リスキーシフトのエネルギーを活用して、チームのモチベーションを高め、挑戦的な目標に取り組む。

例えば、チームで「業界初の挑戦」を掲げることで、メンバーのやる気を引き出す。

  • バランスを取る

リスクを取る議論の後に、冷静な評価フェーズを設けて、実行可能なアイデアを選別する。

これにより、リスクの高いアイデアを現実的な計画に落とし込む。

  • 学習機会として活用

リスキーシフトが起こった場合、そのプロセスを振り返り、チームの意思決定の癖や傾向を学ぶ。

失敗から教訓を得ることで、将来の意思決定を改善できる。

 

リスキーシフトと現代社会:新たな視点

現代社会では、SNSやオンラインコミュニティの普及により、リスキーシフトが新たな形で現れることがあります。

例えば、Xのようなプラットフォームでは、特定の意見が急速に拡散し、集団の意見が極端化するケースが見られます。

これは、オンラインでの「エコーチェンバー(反響室)」効果とリスキーシフトが結びついた結果です。

投資関連のオンラインコミュニティでは、特定の株や仮想通貨に対する楽観的な意見が広がり、個人投資家が過度なリスクを取るケースがあります。

2021年のGameStop株の急騰は、こうした集団のリスク行動の一例と言えるでしょう。

このような現代的なリスキーシフトに対処するには、情報リテラシーを高め、複数の情報源を参照することが重要です。

また、オンラインでの議論に参加する際は、感情的な盛り上がりに流されないよう、客観的な視点を持つことが求められます。

 

まとめ:リスキーシフトを理解して賢い意思決定を

リスキーシフトは、集団での意思決定においてリスクを取る傾向が強まる心理学的な現象です。

社会的比較、責任の分散、情報共有の偏り、同調圧力などがその背景にあり、ビジネスや日常生活、歴史的な出来事でさまざまな影響を与えます。

この現象を理解することで、過度なリスクを避けつつ、集団の力を活用した賢い意思決定が可能になります。

多様な意見を取り入れ、客観的なリスク評価を行い、心理的安全性を確保することで、リスキーシフトのデメリットを最小限に抑え、メリットを最大化しましょう。

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